ヨアン・ウィッサ。プレミアリーグへの移籍という夢を目前に、2021年7月、彼は悪夢に瀕しました。自宅で襲われ、顔に酸を投げかけられたのです。失明、そしてキャリアの終焉さえ危ぶまれました。犯行に及んだ女性は、彼の娘の誘拐未遂も含め、18年の懲役刑を受けました。
しかし、このトラウマはウィッサを強くしました。当時ロリアンを率いていたクリストフ・ペリシエ監督が、襲撃から1日後、病院でウィッサを訪ねた際、その決意は明確に表れていました。「肉体的にも精神的にも苦しんでいるにもかかわらず、ヨアンはすぐに成功への強い意志を示しました。彼の強い意志と決して諦めない姿勢に感銘を受けました」と監督は語っています。
フランス2部リーグのシャンブリー戦で、わずか3000人にも満たない観客の前でプレーしていた2019年から、彼は着実に成長を遂げました。そして今、ブレントフォードからの5500万ポンド（約100億円）という高額移籍でニューカッスル・ユナイテッドに加わり、来週にはチャンピオンズリーグでバルセロナと対戦する可能性があります。
ロリアン時代のチームメイト、ピエール＝イヴ・アメルも彼の成長に驚いていません。「襲撃の後も、彼は決して不平を言いませんでした。すぐに前を向こうとしていました。今日の成功は、彼の努力に対する当然の報酬です。ヨアンは一度心に決めたことは、どんなに時間がかかっても必ずやり遂げます」
ニューカッスルへの移籍への強い意志は、数週間前に自身のインスタグラムからブレントフォード関連の投稿を全て削除したという行動にも表れています。先月には声明を発表し、ブレントフォードに「約束を守れ」と訴え、「不当に移籍を妨げられている」と主張しました。この行動は、移籍を強行したアレクサンダー・イサクのケースと比較され、ブレントフォードサポーターの反感を買いました。BBCスポーツのブレントフォード担当ライター、イアン・ウェストブルック氏は、「適切な形で移籍する選手には悪感情を抱かない」としながらも、「ウィッサのようにクラブを出し抜くような行動に出た選手は少ない」と批判しています。
ウィッサ自身はニューカッスルのクラブメディアのインタビューで、「常に敬意を払って接してきた。だから常にフィットネスを維持し、練習に参加し、仲間たちと過ごし、移籍の適切なタイミングを待っていた」と釈明しました。ブレントフォードのフットボールディレクター、フィル・ジャイルズも、ウィッサを「魅力的な人物」と評し、移籍劇とは別に彼の4年間の貢献を高く評価しています。
ニューカッスルはウィッサ獲得に強い意欲を示し、移籍最終日に3度目のオファーを出して獲得に成功しました。これは、25歳以上の野手獲得が2022年夏のハウ監督就任以来なかったニューカッスルにとって異例の転換点でした。29歳という年齢はベテランと言えるかもしれませんが、ウィッサは前シーズンのプレミアリーグで19ゴールを挙げるなど、着実に成長を続けています。この得点力、そして献身的なプレーが、昨シーズン2桁得点を挙げた選手がイサクただ一人だったニューカッスルにとって大きな魅力となったのです。
ロリアンの元チームメイト、ジュリアン・ラポルトは、「ヨアンのような選手と一緒にプレーできたことを誇りに思う。彼の素晴らしいキャリアはまだ終わっていない」とウィッサの更なる活躍を期待しています。
